どうせよくあるライブフィルムだろうと思っていたら、見事に裏切られた。30日公開の映画「グラストンベリー」(東京・渋谷のQ―AXシネマほか全国順次公開)。英国南西部で初夏に開かれる、音楽とパフォーミングアートの祭典を描いたドキュメンタリーだ。
日本のフジ・ロックフェスティバルのモデルになった祭典が始まったのは70年。映画は、観客1500人ほどのイベントが、20万人を集める世界最大級の祭典に成長していく過程を追う。
単に歴史をなぞるわけではない。監督ジュリアン・テンプルは71年の映画「グラストンベリー・フェア」(DVDが発売中)などプロの作品から、アマチュアビデオまで30余年間の雑多な映像素材を時間軸に関係なくコラージュする。
冒頭、ベルベット・アンダーグラウンドのステージ映像は、すぐに観客が思い思いに会場へ向かう風景につながれる。不法侵入、政治とのかかわり、地域とのあつれき、トイレ問題といったトピックを次々提示し、デビッド・ボウイ、ビョークらの演奏はBGMのようにしか使われない。主役は観客、と言いたげに。
カメラがとらえる観客は実に伸び伸びしている。カラスを頭に乗せた少年に、馬に乗って移動する少女。ピエロや悪魔への扮装や全裸でのダンス。ステージから離れて自らの演奏に没頭する人がいれば、怪しげなキノコを売っている人も。
こうした風景をどこかで見た、と思い浮かんだのは話題のウェブサービス「セカンドライフ」だ。コンピューター・グラフィックスによるネットの仮想空間。参加者は思い思いのCGボディーに身を包み、モノを作って売ったり、新しいサービスを始めたり、「第二の人生」を満喫する。
自由を感じさせる空間作りが新鮮で、参加者の「遊び心」が試される。なのに日本では「新しいビジネスチャンス」なんて騒ぐ向きが多い。音楽フェスは日本にも定着したが、まだ「ライブを見る」というイベント色が強い気がする。
グラストンベリーの精神を、テンプル監督はこうコメントする。「この瞬間を生きるという哲学。体験を分かち合い、現代の生活のストレスからほんの数日でも抜け出すという哲学」
与えられた環境をただ楽しむのでなく、自ら遊ぶ精神。欧米生まれの二つの「非日常空間」にそんなことを思った。
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