稀有なJ-POPシンガー
一連の報道から改めて感じたこと平田 祐二
ZARDの坂井泉水さんの訃報から数日たった。オーマイニュースでもいくつか記事が取り上げられていたが、ゴシップ的あるいは感傷的な観点のものが多く、音楽的な面に触れたものはライター烏賀陽氏のもの位しかなかったのが少々残念だった。しかも見解的にはまったく逆だったので、僕も僭越(せんえつ)ながら書かせていただこうと思う。
芸能ネタはもういい
別の病気ための入院先で、非常用スロープからの転落による事故死。これに対し、早速週刊誌などでは「自殺」説がささやかれるなど、明らかに死因の方に報道の関心が移ってきている。病院サイドは安全管理の責任問題から、うやむやにできない部分があり、事務所側は飛び交う見解の相違に対して先手を打つ形で公表したのだろうが、もうこれ以上芸能ネタとしての報道はいいのではないかという気がする。
そうでなくても、詳しいファン以外には謎めいたものとして伏せられていた本名や年齢、過去の経歴などのプロフィールが、事件とともに簡単に明らかになってしまう。ネット社会の宿命なのかもしれないが、いち音楽ファンとしてはそっちの方が何とも切ない。
残された楽曲にスポットライトを
たとえが適切かどうかわからないが、尾崎豊のように彼の生きざまが音楽性にも顕著に反映されていたアーティストであれば、死の真相を理解することで遺作への共鳴が増す部分もあるかもしれない。が、彼女の場合は明らかに違う。むしろ送り出してきた作品は、生活臭を意図的に排除し、一度発表してしまえばあとは聞き手の中でパーソナルな居場所を作ってしまうタイプのものが大半だ。だから、残された曲そのものに正当にスポットライトが当たれば、彼女としても本望なのではないか。
90年代を席巻したイメージがあったが、40作連続トップ10入りしたにもかかわらず、意外にもシングルのミリオンセラーは「負けないで」などアップテンポの3作のみ。一方で、アルバムは編集盤を含めて99年発売までに9枚のミリオンヒットを出している。昨年は15周年盤アルバムで週間1位を獲得した(このアルバムが最近「アマゾン」のランキングで1位になるなど急浮上の動き)。
テレビタイアップに支えられた人気という見方は、彼女の所属していた事務所「ビーイング」の隆盛とともにマイナスで捉えられることが多い。しかし、逆に言えばライブも音楽番組出演もない中で、ここまで人気を保ってきたことは素直に評価されて良いと思う。
実際に倉木麻衣や大黒摩季など、同じ路線を取っていた同事務所系アーティストは人気の陰りとともにライブやテレビ出演の封印を切ってしまった。パッケージされた作品で最後までJ-POP界に挑んだ彼女の音楽的側面からの評価がもっとされても良いのではと考える。
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