「軽井沢八月祭」のロゴマーク
日本有数の避暑地、軽井沢(長野県軽井沢町)はザルツブルグ(オーストリア)になれるのか。クラシック音楽を柱に据え、晩夏の新風物詩として開かれる「軽井沢八月祭」は、リゾート地での新たな音楽イベントを提案する試みだ。本格的音楽ホールの「軽井沢大賀ホール」を同町に寄贈したソニー元社長の大賀典雄さんが提唱したこの音楽祭には、音楽家としても名高い大賀さんが発起人を務めるイベントならではのアイデアにあふれている。
「軽井沢八月祭」は軽井沢町をメーンエリアとして、8月20~26日の7日間にわたって開かれる。30を超える会場で、200以上ものコンサート、イベントを開く大がかりなフェスティバルとなる。
左は小菅優 (C)Steffen Janicke.jpg。右は前橋汀子
同町内の軽井沢大賀ホールを主会場に、近隣の美術館やホテルなど様々な場所で演奏会や関連イベントが予定されている。軽井沢町に隣接する御代田町のホテル、レストラン、美術館なども会場となる。教会や学校など、一般的には集客を目的としていない施設も参加し、この期間中の軽井沢エリアは地域ぐるみの音楽祝祭空間となる。
クラシック音楽が主役的な存在ではあるものの、写真展や童話・絵本展、オーディオ展示会、自動車イベントなど、様々なジャンルの催しを相次いで開く総合芸術祭と言える。展覧会は十文字美信写真展「演奏家たちの顔」(22~24日、軽井沢大賀ホールロビー)や、「ニッサン童話と絵本のグランプリ」作品展(1~26日、ムーゼの森 軽井沢絵本の森美術館)など。万平ホテルのコンベンション施設「ザ・ハッピーヴァレイ」ではオーディオ展「極上のリゾート、極上の音 軽井沢オーディオサロン」が開かれる。車好きには日本ロールスロイス&ベントレーオーナーズクラブのクラブミーティングが楽しみだ。
「軽井沢大賀ホール」はどの客席にも音が均一に届く狙いから、五角形の構造が採用されている
8月上旬から八月祭期間まで、軽井沢町と周辺地域のいくつかのレストランやカフェでは限定メニューが用意される。ホテルブレストンコートは「スイーツ博」(5~8日)を開く。
メーン会場の軽井沢大賀ホールでは、30を超えるコンサートが予定されている。演奏ジャンルはクラシックのほか、日本の歌曲や尺八なども織り交ぜる。ザルツブルグ音楽祭でもデビューを飾った期待のピアニスト、小菅優や、今やベテランのバイオリニスト・前橋汀子、チャイコフスキー国際コンクールの声楽部門で1998年に優勝したソプラノの佐藤美枝子、ミケランジェロ弦楽四重奏団を伴って参加するビオラの今井信子ら人気演奏家のリサイタルがラインアップを彩る。午前10時ごろから夕刻過ぎまで、1日ずっと音楽に浸っていられる幸福な時間が待っている。
左は村治佳織(写真:小林みのる)。右は佐藤美枝子
幕開けの8月20日は8時間にも及ぶマラソンコンサート「軽井沢八月祭フェローシッププログラム」(軽井沢大賀ホールで)がオープニングを飾る。若手演奏家約30人が参加。、軽井沢町にある美術館、教会、ホテル、学校、レストランなどの様々な会場でクラシック音楽を演奏する。その場にたまたま居合わせた聴き手との偶然の出会いから、瑞々しい音楽の誕生を誘う劇的な仕掛けだ。
22、23の両日は軽井沢大賀ホールで1公演1時間の公演が1日5回も開かれる。22日に登場する5組は小菅優&佐藤俊介(ヴァイオリン)、マルクス・パヴリック(ピアノ)、前橋汀子&加藤洋之(ピアノ)、藤原道山(尺八)、ミケランジェロ弦楽四重奏団。23日には工藤すみれ(チェロ)、小菅優、アタナス・ウルクズノフ(ギター)&小倉美英(フルート)、佐藤美枝子&河原忠之(ピアノ)と続き、「HOMMAGE A TAKEMITSU~武満徹のVoice(声、言葉、道)」には今井信子、野平一郎(ピアノ)、村治佳織(ギター)、藤原道山、林美智子(メゾソプラノ)が参加する。
24日は軽井沢大賀ホールで鍵盤楽器の連続リサイタル「鍵盤で聴く音楽史」が開かれる。チェンバロからピアノまでの音楽史を1日で振り返る。24日には、午前9時半から午後9時半までの12時間に、1公演45分のリサイタルを10プログラムも開き、バロック期から20世紀までの音楽史を鍵盤の調べとともに駆け抜ける試みだ。
22~24日に軽井沢大賀ホールで開かれるコンサートには3歳以上なら子供でも入れる。0歳児から参加できる、子供向けのプログラム「Concert for KIDS~小松亮太の0才からのタ・ン・ゴ」も21日午前11~12時に用意されている。
入場料はリサイタル1公演ごとに1000~1700円という破格の安い値段に設定した。有名演奏家が次々と登場する22、23日でも、1公演当たり1階席が1700円、2階席が1200円という低料金に抑えた。24日は1階席が1500円、2階席が1000円だ。24日の全10公演通しチケットは1万2000円(1階席)で、12時間聴いて1万円ちょっという常識はずれの安さだ。チケット料金には美術館や店舗での割引や特典サービスが受けられる「軽井沢八月祭パス」(200円)料金が含まれている。パスの収益金の一部は環境保護に役立てられる。
こうしたエリア型の音楽イベントには東京都内でゴールデンウイークの風物詩となりつつある「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン『熱狂の日』音楽祭」の例がある。仙台市の「仙台クラシックフェスティバル」も低価格路線を打ち出した地域音楽イベントとして知られる。世界的なピアニストのマルタ・アルゲリッチが総監督を務める大分県別府市の「別府アルゲリッチ音楽祭」は2008年で10回目を迎える。有料・無料合わせて約300のコンサートが開かれた2007年の「熱狂の日」は、周辺イベントを含めて推計100万人以上を動員した。軽井沢八月祭の目標動員数はその半分の50万人だ。
大賀さんは軽井沢八月祭の発表に当たって、「近い将来、このホールを中心として軽井沢が、音楽面でオーストリアのザルツブルグやスイスのルツェルンのような町になっていって欲しいと願っています」と述べた。長野冬季五輪をきっかけに新幹線が開通し、首都圏から訪れやすくなった軽井沢。有名ホテルに美食、ゴルフ、スキー、美術館、アウトレットなど、他の観光地がうらやむような魅力を兼ね備えたこの地に、「軽井沢八月祭」という新たな魅力が加わるのを、自分の目と耳で確かめる最初のチャンスは8月に訪れる。
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